東京都看護協会主催の第57回看護研究学会では「新たな時代のウェルビーイング」というテーマで慶應義塾大学大学院教授・ウェルビーイングリサーチセンター長の前野隆司先生に登壇いただきました。
前野隆司先生は「幸福学(Well-Being)」の第一人者で、今多くの人が講演を聞きたいと願う講師の先生です。前野先生のご講演について、終了後アンケートや協会事業に参加する会員から様々な反響がありました。寄せられた声とともに看護職のウェルビーイングについて考えてみたいと思います。
前野先生はご自身の著書で、「幸福学とは幸せに生きるための考え方や行動を科学的に検証し、実践に活かすための学問」と述べられています1)。皆さんは、これまで「幸せ」や「幸福」について深く考えたことがあるでしょうか? 看護は人々の健康を支えるために、様々なケアを提供します。心に寄り添い、ニーズを把握し、療養生活が少しでも希望に沿うように力を尽くします。必ずしも良い結果につながるとは限らないので、患者や利用者のために心を砕き涙することや、疲労感が重くのしかかることもあるかもしれません。
前野先生は顧客と社員の幸せを第一に考えることについて触れられています。個人か集団に偏るのではなく、「個人の幸せ」と「皆の幸せ」のどちらも大切にするのがウェルビーイング第一主義であり、これからの時代に求められる組織であると述べています2)。前述のように、看護職の顧客である対象者は、支援を必要とする人であります。そのため、看護職自身の幸せを考えることには気が引けるという人も多いのでしょう。講演後のアンケートには、「今まで考えたことがなかった。」「医療の現場、看護職にはあてはまらない気がする」というご意見もありました。一方で、「これからは考えて行きたい。」「今日のお話を聞けてよかった。」「人生にこの考え方を取り入れていきたい。」などもありました。私が最もうれしかったのは、終了してから数か月後に、「講演を聞いた同僚が、伝達講習をしてくれました。講演を聞いてよかったと話していました。」「とてもいい講演内容と思う。」「講演内容を聞いて、職場で考え取り組むことにした。」というように実際講演を聞かなかった方からも前向きな反響が寄せられたことです。
対象とする人への看護ケアは皆で意見を出し合いベストを尽くすこと、お互いの努力や功績を認めあうことを大切にし感謝のことばも伝えましょう。看護職の職務満足度が高いことが幸せの第一歩と考えます。また、業務の手順や効率化については、看護管理者にゆだねるのではなく自由に意見を出し合い決めていきます。自発的な取り組みで看護部組織を動かすことができる幸せを共有できるといいですね。それは組織開発、心理的安全性の保たれた組織の理論でも裏付けをすることができます。そして、看護職の倫理綱領でも「ウェルビーイング」については明記されているのです。
看護職として働く幸せと皆が幸せな職場について、一緒に考えてみませんか?
参考文献
1)前野隆司:幸せな職場の経営学「働きたくてたまらないチーム」の作り方、小学館2019.
2)=1)