[第4回]「社会人基礎力」と「看護実践能力」

 令和6年度は、「新人看護職員のための社会人基礎力習得セミナー(以下新人セミナーという)」を企画したところたくさんの施設から多くの反響をいただきました。そのため、急遽開催回数を増やして9回実施し、97施設1000名以上の看護職の皆様にご参加いただきました。次年度令和7年度も開催を予定していますので、今回は「社会人基礎力」を私なりに吟味しておきたいと思います。

 

 「社会人基礎力」は、「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」として、経済産業省が2006年に提唱しました。経済産業省の提唱によりますと、社会人基礎力は「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」の3つの能力と、12の能力要素から構成されています。新たに社会人となった人々が身に着けるべき能力ということではなく、社会人なら誰にも必要な能力であることがわかります。そして、2018年、人生100年時代の到来により視点を修正し、「これまで以上に長くなる個人と企業・組織・社会との関わりのなかで、ライフステージの各段階で活躍し続けるために求められる能力」を「人生100年時代の社会人基礎力」と再定義しています。さらに、「社会人基礎力の3つの能力/12の能力要素」を内容としつつ、能力を発揮するにあたって、自己を認識してリフレクションをしながら、目的、学び、統合のバランスを図ることが、自らのキャリアを切り開いていく上で必要と位置付けられるとしています。
 それでは、看護職として必要な「看護実践能力」と「社会人基礎力」は、どのような位置づけで考えればよいのでしょう? 
 経済産業省の資料(図1)では、「キャリア意識・マインド」を基盤とした「社会人基礎能力」の上に業界等の特性に応じた能力を獲得することでパフォーマンスが向上する(縦軸)、そして年齢を重ねる(横軸)ごとに両方をアップデートする必要があるとしています。

 

図1 「人生100年時代」に求められるスキル 

出典:経済産業省 社会人基礎力 https://www.meti.go.jp/policy/kisoryoku/index.html 資料より

 

 一方、日本看護協会が昨年公開した「看護職の生涯学習ガイドライン」では、看護職として活躍するために必要な能力を3種類に大別し、社会人に求められる能力のなかで、経済産業省の「社会人基礎力」を引用して関連づけています(図2)。
 つまり、社会人としての基盤となる能力を継続して育み、看護実践能力を専門的スキルとして獲得しながら、自身がなりたい看護職をめざし、更に活躍し続けるために経験とリフレクションを重ねながらアップデートして行くということになります。

 

図2 「看護職の生涯学習ガイドライン」P7から抜粋


※3…経済産業省(2018)、人生100年時代の社会人基礎力
※4…日本看護協会(2023)、「看護師のまなびサポートブック」掲載
※5… 日本看護協会(2022)、「助産実践能力習熟段階(クリニカルラダー)活用ガイド2022」掲載

出典:公益社団法人日本看護協会

 

 そして日本看護協会「看護師のまなびサポートブックp26」の中では、「看護実践能力」は働く場や領域、担っている役割に関わらず、すべての看護師に共通して必要な能力として説明しています。「看護実践能力」の具体的な項目(従来、クリニカルラダーで示されていた「看護の核となる実践能力」の拡張版)は、1専門的・倫理的・法的な実践能力 2臨床実践能力 3リーダーシップとマネジメント能力、4専門性の開発能力の4つです。おそらく施設の教育プログラムの基本は、これに準じて構成され、領域や設置主体などの特徴により追加されているのではないでしょうか?施設によっては、看護協会やナースプラザのプログラムを利用されていると思います。

 新たな協会事業として開催した、新人セミナーは、施設の看護管理者や教育担当者からのご要望を受け企画し、多くの皆様のご協力により実現したプログラムとなりました。

 また12月7日には看護管理者・看護教育責任者交流会企画委員会主催の研修会を、「社会人基礎力 成長を促すための方法について」というテーマで開催いたしました。大学・専門学校の教員と施設で教育支援をされている看護管理者を対象とした研修会です。聖マリアンナ医科大学総合教育センター副センター長 近藤昭子先生に新人セミナーでの講演内容と施設での支援方法を講演いただきました。その後、基礎教育の現場と新人看護職員教育の現場での実践や課題を報告いただき参加者で共有しました。
 若い世代の支援が主な論点でしたが、終了後のアンケートでは各世代やキャリアステージに応じた支援も大切であること、教育現場と臨床現場の協力が重要であるというご意見もありました。今回は、教育機関と臨床現場の情報交換・連携の重要性と、すべての世代へのリフレクションの場を提供することが重要であることが改めて確認できました。

 次年度も引き続き、新人セミナーを開催し、定着と離職防止を目標に取り組んでまいります。社会情勢や疾病構造の変化や医療技術の進歩に並行して、様々な看護活動の経験がキャリアを形成していきます。看護職ひとり一人が自己実現できるための支援をめざして協会事業を考えてまいりたいと思います。

 

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