終末期看取りを担当させて頂いたA氏ご家族から頂いた本である。
在宅医療も経験された順天堂大学堀江重郎医師がさまざまな分野の賢人と「いのち」について語り合う対談集である。
A氏が大変感銘を受け、在宅での終末期医療及びケアを選択するきっかけとなった本だと伺った。お気に入りの赤ペンで所々線が引かれ、書き込みもありご家族にとっても思い入れのある本であることは間違いなく頂くことに躊躇いがあったが、あなたには是非読んで頂きたいのだと言われた。
亡くなる3日前のやり取りでA氏はすでに意識レベルが低下していた。在宅看取りを選択したA氏の思いを感じとることは担当看護師としての責任でもあるように感じられ、読ませて頂いた。
訪問当初A氏は、入院中医療従事者は誰一人私の精神的な苦痛をわかってくれなかった。患者の気持ちを自分の身に置き換えて考えてくれと何度も伝えたが叶わなかった。
だからあなたは僕に何をしてくれるのかと問われた。新人看護師の時に、癌の患者さんに安易な言葉をかけ「僕の痛みや苦しみの何がわかるのか。」と言われた時の患者さんの顔、場面、そして自分の愚かさを感じさせられ、看護師として30年経った今でも忘れることができなかった・・・
そこで私は「あなたの思いに寄り添いそこから感じ取ったケアを一緒に考えていきたい。」と伝えた。すると、A氏はその感受性は医療従事者として大事なことだと話して下さり、それからはA氏やご家族の思いに触れながらの訪問が続いた。
帰る時には決まって手を合わせ「思い残すことは何一つない。ありがとう、また待っています。」と話されるA氏の顔が今でも浮かんでくる。
訪問看護師として看取りを担当する度に責任の重さは感じるが、出会いによる学びや感謝は測り知れない私の財産である。
千駄木訪問看護ステーション 渡辺智子
